ニュース検証: メディアが見誤る「JREポイントの戦略」 ~その“真”の狙いとは
多くのメディアが、JR東日本のポイント・カード戦略に関して、様々なコメントを提示しています。しかし、今一つ本質に踏み込んだ議論がなされていないのでは?今回は、ポイントビジネスの基本を踏まえながら、JREポイントの戦略の正しい評価を行いたいと思います。
メディアのコメントは表面的。“ポイント”というものの本質まで踏み込んでいない。
東日本旅客鉄道(JR東日本)は自社駅ビル(アトレやグランディオなど)で各自がそれぞれで展開していたポイントサービスを統合し、新たな「JREポイント」を開始しました。(https://www.jreast.co.jp/press/2015/20160205.pdf)
多くのメディアの見解を調査すると、
共通ポイントの拡がりで「数の争い」の様相を呈するポイント業界において、自前のポイントを自社グループ内に絞って展開するのは確かに特徴的だ。共通ポイントに参加すればポイント経済圏は広がるが、参加企業が増えることで各社の囲い込む力は相対的に弱まる。JR東日本はポイントサービスを閉じる方向に決断を下した。(独自の経済圏を形成! JREポイントを立ち上げるJR東日本の狙いとは http://news.mynavi.jp/articles/2016/02/24/jre/001.html)
JRE ポイント創設の目的は「JR東日本の各ポイントサービスの共通化」となっている。将来はSuicaやビューのポイントと統合する(「JRE ポイント」をJR東日本がスタート http://ascii.jp/elem/000/001/123/1123971/)
などが代表的ですが、その他もメディアも“単独による強い囲い込み”“駅ビル間の相互送客”という論調を基本としております。もちろん、間違っているという訳ではなく、当然、そのような意図もあって、独自ポイントとしてのJREポイントをスタートしたことには間違いがないのですが、裏に隠された意味を考えると、よりJRの狙いを想像することができます。
ポイントビジネスの基本「付与と償還」。そして「限界費用」という考え方
ポイントビジネスはポイント発行業者(今回の例ではJR東日本)がポイントを加盟店(今回の例では駅ビル店舗)に販売し、加盟店はそのポイントを消費者に付与して、疑似的に割引というベネフィットを提供しています。消費者は溜まったポイントを商品交換や値引きとして利用することで、疑似的であった割引を、実際の割引へと変換して活用します。この流れをポイント事業者から見ると「付与」と「償還」という呼び方をしています。
実はこの「償還」をいかに魅力的に見せかつ、低コストで提供出来るかがポイント事業のカギを握り、近い将来JR東日本から「JREのポイント交換商品として“新幹線の指定席”や“ホテルメッツ(JR東日本グループのホテルチェーン)の宿泊券”が登場!」というようなプレスリリースが出るのではないかと予測しています。
何故かというのを具体的な事例をイメージしながら考えてみましょう。
「普通ならば1万円を超えるような新幹線の指定席特急券が2000ポイントで交換できる」となった場合、消費者としては1000ポイントを1000円の商品に交換するよりはるかにお得と感じ、新幹線の指定席特急券に代えるのではないでしょうか。その裏で、JR東日本にとってもお得な現象であり、お客様が満席でも閑散としていても新幹線1編成を運行する費用は変わらない為、本来空席の座席にポイントで乗ってもらえることで、発行したポイントを費用ゼロで回収することが出来ると、両社お得となるプログラムが実現するのです。
“限界費用”の低いプレイヤーのみが優位に実現できる。
実は、このプログラムは何も目新しい手法ではなく、数十年前からANAやJALなどのエアラインが取り込んでいる“マイル”やCCC(TSUTAYA)が提供しているTポイントがこのプログラムを実現しています。(ANAやJALなどのマイルは、その償還先に航空券の空席やANAホテル、日航ホテルがあり、TSUTAYAは、その償還先にレンタルビデオ(借りられないでおいてあるよりも借りてもらった方がいい。サービス提供の費用は変わらない)がある)
つまり“限界費用”の低いプレイヤーのみが優位に実現できるポイントプログラムがあり、その為、JR東日本は自己グループに閉じてもポイントプログラムの成長が見込まれているというのが、裏に隠された狙いの一つと想像しています。
(補足:限界費用(Marginal cost)とは、経済学の用語であり、サービスの量(生産量)を、ある1単位だけ増加させたとき、コストがどれだけ増加するかを考えたときの、増加分の事であり、本稿の事例では、新幹線の空席を一つ提供する為に増加するコストの事を示す。(つまりほぼゼロということ)