北海道新幹線と青函トンネル|第2回 限界では走らない新幹線/Newsの検証
実は“本気”で走っていない北海道新幹線。
この連載では、2016年3月に開業した北海道新幹線と何かと問題視されやすい青函トンネルについて、論点や“真”の課題を明らかにしつつ、ニュースの検証をしていきます。
東京―新函館北斗間4時間2分
そもそも、北海道新幹線の最速列車はというと、上りは、17時21分発のはやぶさ34号、下りは8時2分発のはやぶさ5号と9時36分発のはやぶさ11号の3列車が4時間2分で東京と新函館北斗間862.5㎞を結んでいます。
この “東京と新函館北斗間862.5㎞4時間2分”という事実に対して、「青函トンネルを260㎞で走行できないから4時間を切れないのだ」という乱暴な議論があります。本論考では、この議論がそもそも的を射ているのかどうかを明らかにしたいと思います。そのために最初に、それぞれの各駅間での最速列車の走行時間と速度を計算により導出し、問題を分割し明確化しつつ、議論のベースを固めていきたいと思います。
それぞれの区間別で決められた速度制限
そもそもの問題の発端となっている通り、青函トンネル内は140km/hでしか走行できないように新幹線でも高速道路のように最高制限速度が定められています。
この図の通り、実は320km/hで走行できるのは宇都宮から盛岡までの間だけであり、
・首都圏区間である東京―大宮間は110km/hに制限
・首都圏区間である大宮―宇都宮間は275km/hに制限
・(法的に)整備新幹線ではない盛岡―新函館北斗間は260㎞/hに制限
そして
・青函トンネルを含む新中小国信号場―木古内間は140km/hに制限
となっています。では、はやぶさ5号のダイヤを例にとり、各区間での走行時間や速度を(できるだけ)正確に導出してみることとします。
加速、一定速、そして減速
「100kmの区間を100km/hで走行すれば1時間ちょうどになる」というのは中学校でも習った内容ですが覚えていますか?
ただ、「100㎞の区間を0㎞/hから100km/hまで加速して、最後0km/hに減速して止まるまでに何時間何分かかるか」という話は高校物理の内容になりますので、ご存じない方もいるかもしれません。
この計算をする上では「加速度」という概念を理解する必要があり、これは「ある時間に速度がどれだけ速くなるのか」という単位であり、速さ÷時間で表現されます。
では、この加速度(と減速度)の概念を使って、東京―大宮間の所要時間を計算してみましょう。
東京大宮間は30.3kmあり、その間の最高速度は110km/hです。走行するE5系新幹線の加速度は、1.7km/h/sec、減速度は2.6km/h/secです。(出所:JR 東日本 E5 系新幹線電車(量産車) 車両諸元http://adlersson.x10.mx/wp-content/uploads/2014/02/Shinkansen-Series-E5-Datasheet-Extract.pdf 新幹線高速化に向けたブレーキの開発https://www.jreast.co.jp/development/tech/pdf_31/Tech-31-17-21.pdf)
こののち、加速していた時間をTa、定常走行した時間をT、減速していた時間をTdとします。
すると、最高速度が110km/hと判明しているので、Ta、Tdともに、導出することができます。問題は、定常走行していたTの導出方法です。これは距離÷速度(110km/h)で導出できるのですが、加速に要した距離と減速に要した距離を定常走行していたはずの距離から引かないと正確に導出できません。そのため、加速に要した距離Laと減速に要した距離Ldを導出します。
そして、このLaとLdを30.3kmから引いた距離Lが定常走行した距離であり、これを110km/hで割れば、定常走行した時間が導出できます。あとは、TaとTdそして定常走行していた時間Tを足せば、東京―大宮間でかかった時間が導出できるのです。
なぜ、こんなにややこしい計算をしているのか?
いや、そもそもダイヤ見ればいいんじゃね?
という声も聞こえてきます・・。
そう、実は今回のNewsの検証はここにあるのです。
上記計算で導出された東京―大宮間の所要時間は、17分。
対して、最速ダイヤのはやぶさ5号は23分。
この4分差が何を語っているのか。。。
つまり、「新幹線は最高速度で走行していない」という事実に突き当たるのです。
実は、速度制限一杯では走っていない北海道新幹線
それでは、先の計算式を組み込んだExcelシートで、それぞれの区間での走行速度を求めてみましょう。
すると、おおむね、設定最高速度の5-10%程度遅い速度で走行していることが分かります。
さらにグラフにすると、やはり盛岡以北の速度低下が顕著なことは見て取れます。
しかしながら、4時間を切るための「3分だけ」を創出するのであれば、JR東日本がほんの少しだけ、設定最高速度に近づけて運行すればよいだけの話であり、第2青函トンネルなどと何兆円かかるかわからない事業に着手する必要がないことは、計算からよくわかります。
次回は、それでは、本気で走ったらどうなるのか。そのために必要なことは何なのか。を組み合わせながら、せっかく作ったExcelシートと遊びながら考えてみることにします。
(つづく)