北海道新幹線と青函トンネル|第4回 本当にトンネル内は減速が必要なのか/Newsの検証


「貨物列車が転ぶかもしれない」というのは本当か?

この連載では、2016年3月に開業した北海道新幹線と何かと問題視されやすい青函トンネルについて、論点や“真”の課題を明らかにしつつ、ニュースの検証をしていきます。

20170303_Newsの検証(北海道新幹線)_TOP画像

なぜ、「在来線供用区間では140㎞/h」なのか?

前回では、青函トンネルを高速で通過することが全体の所要時間短縮に効果的であることがわかりました。しかし、本稿の源となったニュース記事を読み返すと

青函トンネルを含む在来線との共用走行区間(約82km)で最高速度が140km/hに抑えられるという特殊事情がある。(中略)速達性よりも安全性を重視した。
(北海道新幹線、東京~新函館北斗間の所要時間は4時間2分 – 4時間切りならずhttp://news.mynavi.jp/news/2015/12/05/075/)

 

青函トンネルとその前後の「在来線貨物列車との共用走行区間」82キロメートルについては、時速140キロメートルに減速を強いられているからだ
(北海道新幹線「4時間の壁」阻む3つのハードルhttp://toyokeizai.net/articles/-/152785)

と書かれており、「在来線供用区間では140㎞/h」という問題が拡大されています。
ここで、ちょっと考えてみますと、なんで、「在来線供用区間では140㎞/h」なのか?という疑問が生まれます。たしかに「安全性を重視した」とありますが、では140km/hだと安全なのでしょうか?
よくわからなくなってきたので、なぜ減速しているのかのニュースを探してみると、

時速260キロメートルで走る新幹線と、在来線の貨物列車がすれ違ったとき、新幹線の風圧が貨物列車にどんな影響を与えるかは未知数。すれ違う際の風圧でコンテナが荷崩れする、などの懸念も指摘されている。(「貨物新幹線」は本当に津軽海峡を走るのか:東洋経済オンラインhttp://toyokeizai.net/articles/-/102046)

とありました。うーん。本当なのでしょうか?貨物のコンテナは積載重要だけでも一番重いもので13ton、一番軽いもので5tonもあります。(http://www.jrfreight.co.jp/transport/container/)これにコンテナの自重がかかります。ちゃんと厳密にシミュレーションしたのでしょうか??
記事をよく読むと「影響が未知数」とか「懸念も指摘」とあるので、「在来線特急の最高速度以下にしておけば、まず事故はおきないだろう」という程度の認識を基にしたと記事では書かれているように思います。

となると、大事なのはニュース記事という二次ソースではなく、情報の出元の一次ソースを探さなければなりません。

 

減速する理由は、、、責任逃れ??

ありました!速度を設定した時の資料として、北海道と国土交通省が検討していました。

ただし、新幹線と在来線が共用して走行する青函トンネルとその前後の区間(青函共用走行区間)については、大規模な地震発生時等における安全性の観点から、現在の特急と同等の時速140kmで走行することとされています。(北海道新幹線に関するQ&A | 総合政策部交通政策局新幹線推進室http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/skt/qanda.htm)

20170321_Newsの検証(北海道新幹線)_国交省140の理由

(青函共用走行の検討状況について 国土交通省http://www.mlit.go.jp/common/000190085.pdf)

つまり、「新幹線は地震に対する脱線対策をしているから高速度で走行しても大丈夫なように配慮しているけど、在来線(特に貨物)は脱線対策してないから、地震が起きたら危ないよ。でも、今も貨物は在来線とすれ違ったりしているから、同じ速度なら、何かあっても文句はいわれないでしょ」という本音(そうは書いてありませんが)聞こえてきます。

ま、おっしゃる通りなんですけどね。。ここに問題を言い始めたら、全国の在来線に脱線対策をしたり、そもそも貨物専用路線を敷け!などと騒がれるような気もしますし・・・。
かくいう理論で「青函トンネルを含む在来線供用部分では140km/hに減速」が誕生したわけです。

 

本当に解決策はそれだけなのか?

ちなみに、国土交通省の資料をよく読むと、他にも興味深い内容があります。
まずは、こちら、

20170321_Newsの検証(北海道新幹線)_国交省 策

第二青函トンネルの話はここから出てきているのですね。。そりゃ、他の策に比べて大規模な公共投資になるので、建設会社や関連企業はこぞって、この案に賛成するだろうなということは容易に想像つきます。
(それよりもなによりも、在来線の転倒防止策とコンテナの飛散防止策で十分なのではと考え、試験やシミュレーションをしようという人はいないのでしょうか??)

また、こんな資料もありました。

20170321_Newsの検証(北海道新幹線)_国交省 ダイヤ

これは、青函トンネル付近のダイヤ図ですが、結構ひっきりなしに貨物列車と特急がすれ違ったり追い越したりをしていたことが見て取れます。
ん・・。これって新幹線になってどのように変わったのでしょうか?
探してみると、

20170321_Newsの検証(北海道新幹線)_mainabi ダイヤ

太い線が新幹線のダイヤ、細い線が貨物列車のダイヤです。

 

あれ?もしかして。。
このダイヤ図が正式なものかは不明ですが、貨物列車のダイヤ(のスジ)を数えてみると、新幹線開業後の方が増えています。

20170323_Newsの検証(北海道新幹線)_ダイヤ比較
新幹線開業による効果はJR貨物側も享受していたということになります。(もちろん18両の貨物列車を2本走らせるより、12両の貨物列車を3両走らせたほうが、集荷・積載の弾力性の面からも良いという理由があります)

それでも尚、ダイヤをじーーーっとみていると、一本だけ、貨物列車とのすれ違いのない下り新幹線がありました。

20170323_Newsの検証(北海道新幹線)_ダイヤ比較3

15時31分新青森発のはやぶさ19号だけは、在来線併用区間でのすれ違い(図中のオレンジ丸印)がないダイヤになっています。このはやぶさ19号だけは、240km/h走行しても貨物列車とのすれ違いは無いので安全性が保つことができます。(現最速のはやぶさ5号はすでに2本の貨物列車とのすれ違いがあり、ダイヤ変更は難航が予想される・・)

 

青函トンネル高速化は安全確認さえ取れれば可能だが・・

ただ、はやぶさ19号一本だけ高速化しても・・・という話もありますよね。
高速化にこだわる根拠というものがなければ、むしろ国土交通省の資料にある通り、「北海道と本州の陸上輸送維持」が優先されるべきで、1分1秒を削ることに意味はなかなか見いだせないとなります。

さて、第二青函トンネルやトレインオントレインなどなくても、高速化はできないことはないということが分かったところで、この高速化論争の問いをより大きな視点から、そもそもの問の設定を検証していきたいと思います。(つづく)


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