JR北海道の路線は本当に「単独維持が困難」なのか/Newsの検証


2016年11月18日、JR北海道が発表した「当社単独では維持することが困難な線区について」(https://www.jrhokkaido.co.jp/pdf/161215-5.pdf)とこれに関連する報道について、検証していきたいと思います。

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記事概要

経営が悪化している北海道旅客鉄道(JR北海道)は18日、利用者の減少などで単独では維持が困難な10路線13線区を発表した。合計1237.2キロメートルと現在の営業路線のおよそ半分。1987年の民営化以降で最大のリストラとなる可能性がある。沿線自治体と協議を始めるが強い反発が予想される。農産物輸送や観光など地域経済への影響は避けられない。
(日経新聞(11月18日):http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ18HX1_Y6A111C1TJC000/

そうですね。前々からJR北海道は経営が苦しいと方々で叫ばれていましたし、昨年の台風の影響で施設の復旧額が膨大になることもニュースで取り上げられていました。しかし、若干この、「当社単独では維持することが困難」という部分と「維持することが困難な線区」という表現に違和感があるのは私だけでしょうか。「当社単独では」という部分には、どこかの第三者からの協力が必要という意味が込められていますし、「困難な線区」という部分も、そもそもJRという公共交通を担う会社として、「儲かる線区の収益で儲からない線区の赤字を補う」という前提があるにも関わらず、その視点を切り捨てているように思えます。

20170222_路線図

JR北海道「当社単独では維持することが困難な線区について」(https://www.jrhokkaido.co.jp/pdf/161215-5.pdf)より

 

このように線区別でみれば、それは、苦しい線区も多く見えますが、利用者が多い札幌近郊の黒い線で描かれている部分は十分に収益を上げているでしょうから、その収益を再投資できないものでしょうか。

また、より大きな視点に立って北海道の交通政策を論じている記事もありました。

北海道の幹線鉄道は旅客輸送よりも貨物輸送を重視すべきであって、これはJR北海道だけの問題ではない。この議論はJR貨物も参加すべきだし、農業政策にもかかわる。このことからも、「当事者はJR北海道と地元関係者」などと言っていられない状況だと分かる。国交大臣は明らかに認識不足だし、国の交通の監督者として無責任だ。
(ITmediaビジネスonline JR北海道は縮小よし、ただし線路をはがすなhttp://www.itmedia.co.jp/business/articles/1611/25/news032_3.html

貨物の視点から見ると鉄路の重要性が高い訳であり、先の台風被害の時も農作物の輸送に関して、論及されていましたし、第2青函トンネルとか北海道新幹線高速化の議論でも貨物輸送の話は密接にかかわってきますので、国策として大きな視点で語らないといけないのは確かですね。

本当にJR北海道は黒字化が困難なのか

さて、国策としての路線の話や、JR貨物からJR北海道がもらう収入の話は、“政策”の話なので、さておき、ここでは、あくまでもJR北海道が置かれている状況を“与件”としたうえで、路線を廃止せずに生き残ることができないかを考えてみたいと思います。

まず、前提として
・札幌市の人口は200万人近く、ビジネスチャンスは大きい
・札幌、函館の2エリアに人口が集中しており、エリア外の路線は赤字
・冬期間の積雪や長い路線長から路線維持には費用が掛かる
・新幹線のような稼ぎ頭は無い?(ドル箱と言えそうなのは苫小牧―札幌間?)
・観光資源は豊富で、旅行者も非常に多い。北海道のブランド化にも成功している
があげられるでしょうか。

では、そんな中にあるJR北海道の財務状況を見てみることにします。

20170222_財務表

JR北海道 有価証券報告書より

ちょっと表だとわかりにくいので、グラフに直してみます。

20170222_財務表_

このグラフを見るまでは、線区維持の話や、JR北海道の発表資料(https://www.jrhokkaido.co.jp/pdf/161215-5.pdf)から修繕費が費用の主と感じていたのですが、実は一番多いのは人件費であったことが分かります。

するとあくまで、財務面からJR北海道が黒字体質に変わるために必要なことは、
1) 鉄道運輸収入の拡大
2) 関連事業・その他収入の拡大
3) 人件費の削減
4) その他費用(内容は謎ですが)の削減
があげられます。

20170222_財務表_waterfall point

この4つで財務体質を改善し、上げた収益を修繕費や再投資に回していく。あたりまえのことをあたりまえに行う。それがまずJR北海道の黒字化の可能性を探る第一歩目といえるでしょう。
1)2)の収入拡大は、アイデア勝負の話になりがちで、あれもこれも感がでてしまい、議論が発散してしまうので、ここでは、3)に焦点を絞って、黒字化の可能性を見てみたいと思います。

折しも、JR東日本の冨田社長も、北海道新聞のインタビューの中で、

副社長を送っているJR北海道について「財政的な支援というのは難しい」と述べ、JR北海道が自主的に経営改善を図っていくべきだとの考えを改めて示した。
(「JR北海道への財政支援は困難」 JR東日本社長が明言(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170222-00010000-doshin-hok))

とも、話している通り自主再建に死ぬ気で取り組む必要があると思います。

JR北海道の社員は何をやっていくら稼いでいるのか

そもそも、人件費の論に入る前に、JR各社と比べて、JR北海道だけが、人件費が高いのかどうかわからないので、JRの旅客6社(北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州)を比べてみましょう。

20170222_収入と人

運賃収入の大きな東日本、東海、西日本の3社は社員あたり売上が高く、特に東海は圧倒的ともいえます。これは東海道新幹線によるものと考えられます。逆に北海道、四国、九州の3社で見た中でも、JR北海道の社員1人当たり売上は最も少ないことがわかります。
当然「路線長が長いんだから仕方ない」や「積雪するんだから仕方ない」「新幹線がないから仕方ない」などと大合唱することも簡単ですが、その“与件”の中でどう戦うかを考えるのが「経営」ですので、さらに問題を深掘って、なにかできないかを探していきましょう。
そこで、ふと気になったのは、「東京駅とか品川駅とかすごい数の駅員数がいるJR東日本は果たして何人が現場に出てるのか」と部門別の社員数が気になりました。

そこで、国が発表している鉄道統計年表(http://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk6_000032.html)から、部門別社員数を見てみることにします。

20170222_社員数 6社

するとJR東日本の圧倒的な駅員数と運転手数!多い!
ただこれではJR北海道がちょこっとしか見えないので、JR北海道とJR九州、JR四国に絞って、もう一度グラフにしてみると、

20170222_社員数 3社

JR北海道で気になるのは「本社総務」の多さと現場ではその他運輸・工務の多さです。工務の多さは、やはり積雪地かつ山岳路線が多いならではという気もしますが、本社総務の1,100人という数字は、他の2社(JR四国、JR九州)と比べても多いと言えるでしょう。(また、財務でも気になったのですが、「その他」という区分の多さも経営の見えるかが不十分なことを示しており、このあたりも改善の余地が多そうです)

仮にこの1,100人の総務が半分の550人と仮定すると、550人×年収500万=約27億円の費用削減につながり、22億円の赤字分を十分に埋めうる金額になります。もちろん、JR北海道として、そこまでの大胆なリストラを進めることや総務業務の多さを見ずしての人員削減の提言はできないですが、JR四国やJR九州に鑑みると、ここに費用削減の余地があるのではと感じずにはいられません。

このように人件費を論ずると、「雇用の維持の観点からリストラはできない」「社員の生活はどうするのだ」という議論がすぐに沸き起こります。

しかし、今はなにも「リストラせよ」と言っているわけではなく、「総務人員の多さ」を問題にしているのであり、答えがリストラにあると考える必要はないのではないでしょうか。

人材と路線は資産

総務という部署は、様々な問題を取り扱う部署であり、いわばゼネラリストでもあります。550人規模で総務人材がいる組織はそうそう多くはありません。つまり活用しないのはもったいないということになります。

すると考えられる人材の活用方法は2つ。
1つは、総務の能力を道内のベンチャー企業や中小企業のために使う総務センター会社の設立はいかがでしょう。人事や契約、経理など、専門性が高いうえに専任の人材を置くほどの余裕がないベンチャーや中小企業であれば、月額利用料で総務サービスを利用できるようにするなどで新たな収益を生むこともできるかもしれません。

もう1つは、総務人材の現場・新サービス転換です。さすがに総務人材を運転手や駅員への転換はスキルアンマッチに加え、運行コスト増につながるので難しいですが、新たな旅行商品や観光施設での対応など、収益をあげられる部門への配置での満足度向上や収益向上などにつなげられる可能性は十分にあると考えます。

また、人件費や線区維持費などが“悪”と語られがちですが、いずれも会社にとっては収益を生むための資産・資源ですので、これをいかにうまく使っていくかが経営の腕の見せ所なのではないでしょうか。

目指せJR九州!

ほとんどの記事が、「赤字のJR北海道、線区維持断念やむなし」というトーンの中、JR北海道を応援する記述がありました。

JR九州の上場は、労使が鉄道事業の危機を自覚した上で、鉄道運行の信用を母体とした多角経営に挑戦した結果だ。北海道はどうか。人口200万人に届く札幌市も商機が多く、北海道ブランドを掲げて本州以南でビジネスを展開する「南下政策」にもチャンスはあった。JR九州の取り組みは参考になったはずだ。「赤字で当たり前」ではなかったし、「分割民営化の地域割り」が原因でもない。(ITmediaビジネスonline JR北海道は縮小よし、ただし線路をはがすなhttp://www.itmedia.co.jp/business/articles/1611/25/news032_3.html

この記事ではJR北海道、そして国への警鐘を鳴らしていました。

本稿では、JR北海道を否定したり、国策を否定したかったわけではありません。
ただ、
・線区維持という近視眼的視点のみで物事が語られたJR北海道の発表資料と報道
・JR北海道は仕方ないという風潮
は議論の起点が違うのではないか。もっと解決すべき点があるのではないか。過去を見るのではなく、未来を見てはどうか。という視点を是非、本稿の読者に持っていただきたく、一つの論考として書かせて頂きました。
さて、あなたならどうJR北海道を立て直しますか?


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